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2021年1月 1日 (金)

映画『無垢なる証人』が湛える世界

 『殺人の追憶』、『グエルム 漢江の怪物』の監督、ポン・ジュノが、『パラサイト 半地下の家族』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールと、アカデミー賞の作品賞・監督賞・脚本賞を受賞し、世界的に注目されたが、評価が高かった『母なる証明』とともに、わたしはなにも感応しなかった。『殺人の追憶』と『グエムル』の二作品だけでポン・ジュノを評価したい。
 ここ数年、韓国映画はアニメ映画で盛り上がっている日本映画を遥かに凌駕する秀作を量産している今年公開作品で一本だけ挙げてみるならば、わたしは、イ・ハン監督『無垢なる証人』である。主演の弁護士(ヤン・スノ)役のチョン・ウソンと自閉症の少女(ジウ)役のキム・ヒャンギがいい。
 人権派の弁護士だったスノは、四十代半ば、父と二人暮らしだ。父親が多額の借金を抱え、体調も悪い。仕方なく、大手企業を顧客にする弁護士事務所へ入る。最初の仕事が殺人事件の容疑者の国選弁護人として無罪を立証することだった。事件の目撃者で唯一の証人が、自閉症の少女ジウだ。意思疎通をはかろうと、接触を試みるが、うまくいかない。クイズ好きであることを知り、携帯をかけてやり取りが始まる。直ぐに正解を伝えるジウの利発さを理解していくことになる。一審は、ジウが自閉症であることを理由に証人としての正当性が却下されて無罪となる。検察側は上告し、二審の裁判が始まる。スノはジウの証人としての確かさを理解し容疑者側の弁護であるが、証人の正当性を述べていく。
 「聴力が極度に敏感なのは、自閉症の特徴の一つだ」「先天的な気質により、鋭い聴力を持つ」「普通とは違うことが、必ずしも劣るとは限らない」「人はみんな違うのだ」「証人は常に正直だった」「誰よりも立派な証人だった」「ありがとう」
 怒り狂うスノの事務所の所長は退廷。容疑者は被害者の一人息子にいわれて殺したことを自白する。
 ジウの誕生日に弁護士事務所を辞めたスノが呼ばれ、ジウにプレゼントを渡す。夜、部屋で袋からプレゼントを取り出す。青色の小さなガラス玉がいっぱい入っている瓶だ。青はジウが好きな色だった。
 この映画の湛える世界は豊饒だ。

(月刊情報紙「アナキズム」第十号―21.1.1)

 

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