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2020年10月30日 (金)

大澤正道著[解説・森元斎]『石川三四郎 魂の導師』     (虹霓社刊・20.8.31)

 石川三四郎は、幸徳秋水より五歳年少で、大杉栄より九歳年長である。同時代を疾走しながら敗戦後までアナキストとしての矜持を持ち続けていった。一九五六年、八十歳で亡くなる。本書は、石川三四郎伝である。
 「石川は考えてから歩き出すのではなく、考えるまえに歩きだし、あとで後悔することの多い人である。(略)打算ができず、純情なのである」と著者は述べていく。
 女性との関係や宗教、思想との往還にも、そのことはいえるかもしれない。大逆事件に連座しなかったことは、その後の石川にとって、どういうかたちで思想的醸成がなされていったのかは、その後の多様な活動のなかからはなかなか見えにくい。しかし、「土民思想」、「土民生活」に込めたものは、理解できないわけではない。権藤成卿を評価する〈思想的幅〉を持っていたことへ通底するといっていいからだ。Ⅳ章の「天皇と無政府主義者」では、石川の六十代後半からの思想の相貌を照射していく。敗戦時の天皇裕仁の生の声に心撃たれた優しいアナキストが、錦旗革命を目指して苛烈化していく。裕仁という「「偉大な天皇」を擁して、一気に「無政府社会」を実現するという一種の錦旗革命」を石川は妄想していったのだ。軍部の犠牲者だったと、裕仁に同情していく石川の思想の深層には、裕仁を信認して死に至った多くのひとたちのことを見過ごしていることに気付かないでいたのかもしれない。本書は八七年に刊行された新装版である 

(月刊情報紙「アナキズム」第八号―20.11.1)

20105

 

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