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2018年8月10日 (金)

長濱治 著『写真集 創造する魂―沖縄ギラギラ琉球キラキラ100+2』(ワイズ出版刊・18.6.23)

 一九七二年五月、長濱治は写真集『暑く長い夜の島』(芳賀書店)を刊行している。数カ月前に生起した連赤事件の衝撃が消えずにいたわたしにとって、この写真集は、残念ながら未見である。七二年五月といえば、四五年、沖縄上陸戦を開始した米軍を主体とする連合国軍に対して日本帝国軍の無謀な抗戦によって二十万人近い戦死者(住民犠牲者は九万人以上)を出した沖縄戦以後、アメリカ国家の統治下にあった沖縄と周辺の諸島が、いわゆる施政権返還によって日本国へ復帰した時であった。しかし、周知のように、復帰とはいえ、現在でも米軍が駐留を続け、地位協定によって統治下と変わらない、米軍が沖縄住民より遥かに優越な立場にある状態が依然、持続されているのだ。
 『暑く長い夜の島』刊行前後のことを、本書の巻頭で著者は手書き文字で次のように記している。
 「(略)返還前の四年余り、私は沖縄行脚を繰り返した。ベトナム戦争只中の沖縄は最前線基地として異様な活気に満ちていた。(略)沖縄復帰日、私は初の写真展『オキナワはアメリカ』を開催、同時に写真集『暑く長い夜の島』を出版する。(略)復帰後も私は度々沖縄に足を運んでいる。概ね仕事旅ではあったが、私の眼に映る沖縄は、半世紀昔と差程変わりがない。(略)アメリカの従属から未だ脱し得ない“負の日本”の貌が重なる。」
 写真家・長濱治の名前は、サブ・カルチャー誌などのグラビア写真で知っていた。四十六年後に二冊目の沖縄をモチーフにした写真集を刊行した著者の思いに、わたしの関心は注がれていくことになる。
  「沖縄の若き創造表現者を撮りたいと思い始めたのは五年前から」だったという。学生時代からの友人で、「沖縄美術界のアウトロー」で、「沖縄現代アートの礎を築いた」真喜志勉の「手を借り、四十数名を撮り終えた一年後、二〇一五年二月半ば」、彼の訃報が届く。本書は、「生きることが表現だ、その先に創造はある」とする「若き表現者」を讃えた写真集であるとともに、真喜志勉へ捧げる書であるといえる。
 本書の扉の後に「天国の酔人/TOM・MAXへ」と献辞した右頁にガスマスクを付けた男(たぶん真喜志勉)の写真を配置。そして直筆の言葉書きが四頁、真喜志勉の顔、続いて染色家・真喜志民子の穏やかな顔、以下、百人の多様多彩な創造表現者たちの顔が映し出されていく。肩書は、実に様々で出色だ。任意に引いてみれば、「兼業造形アーティスト」、「宮古島ジュニアオーケストラ」、「琉球舞踏家、写真史研究所研究員」、「現代美術家、子供絵画教師」、「HSTI骨格調整所『月の庭』所長」、「調理師」、「闘牛カメラマン」、「石彫家」、「沖縄民謡アーティスト」、「菓子企画・広報」、「音楽家[むぎ(猫)]」、「元ミス宮古、三線奏者」、「彫刻家」、「『Bar天井桟敷』オーナー」、「泡盛杜氏」、「空手女子全国チャンピオン」、「三線職人」、「養豚農家」、「宮古の海人」、「紅型作家」、「コーヒー豆焙煎士」、「琉球史芸人」、「主婦」、「ぬちまーす工場長」、「農家民宿経営者」、「琉球舞踏家」、「沖縄民謡歌者」、「郷土玩具制作卸小売業」、「ペーパージュエリー・デザイナー」、「畑人ミュージシャン」、「廃品回生業者」、「虫使い」、「焼鳥職人、養鶏家」、「カスタムメイド・ジーンズ縫子」、「農家」、「筆文字アーティスト」、「漆喰シーサー職人」、「田芋生産者」などである。著者の映像フォーカスは、「表現の奥底に、深く根を張る“琉球魂”の健在」を漂わせている百二人の像を真っ芯で捉えている。何頁かで、米軍基地周辺の写真や街中を闊歩している米軍兵(黒人がやや多い)、オスプレイらしき飛行物体が飛んでいる沖縄の空の写真を挟んでいるが、抗議行動やデモの写真はない。しかし、本書のやや後半部に、「戰歿/沖繩縣知事島田叡/沖繩縣職員/慰霊塔」と記された碑を映し出している。四五年一月、官選最後の知事として沖縄に赴任してきたヤマトンチューの島田叡と県職員四五三名の沖縄戦で亡くなったことへ慰霊碑である。数カ月とはいえ、渾身の思いでウチナンチューを助けたことへの敬慕から、五一年に建立されたものだ。この碑もまた、琉球魂によって創造されたものだといっていいと思う。そして、それは、ウチナンチューとヤマトンチューが深遠に繋がっていることの象徴であり、琉球・沖縄の「現在」は、まぎれもなく、わが列島の「現在」であることを示しているといえるのだ。

(『図書新聞』18.8.18号)

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