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2016年3月 5日 (土)

『大杉栄全集 全12巻・別巻1』(ぱる出版)完結にあたって

 大杉栄虐殺後九十年、現代思潮社版全集刊行後五十年という長い時間を経て、完全版編集として刊行された本全集は、先頃、別巻を刊行して、完結した。わたしが、完全版『大杉栄全集』刊行の企画を知ったのは、いつ頃だったろうか。たぶん、関わっていた、『秋山清著作集』(ぱる出版)の編集作業が終わりに近くなっていた時だったから、06年末から07年の初めにかけてだったように思う。率直にいって無謀な企画だなあと、感じたといっていい。なぜなら、研究者(といっても、きわめて少数のはずだ)以外、果たしてどれだけ、一般的な読者が購入対象になりうるのだろうかと、考えたからだ。11年から12年にかけて、他の版元からペーパーバックス判で三点、大杉の著作が刊行されて、若い読者を幾らか獲得していたようではあったが、『全集』となれば、話は別である。現在のような閉塞的な情況だからこそ、大杉栄は読まれるべきであるとしても、高価な『全集』を購読することの難しさは、停滞する経済的な情況に、そのまま繋がっていくことを思えば、全集刊行の決断は、凄いことだといわざるを得ない。それでも、わたしのなかでは、果たして順調に刊行されて、完結にいたるのだろうかという懸念が払拭されていたわけではなかった。だが、わたしの杞憂は、見事に外れ、ほとんど、間隔もそれほど空くこともなく一年数カ月で完結に至ったわけだから、版元、編集委員諸氏(小松隆二、山泉進、梅森直之、大和田茂、白仁成昭、田中ひかる、手塚登士雄、冨板敦、飛矢崎雅也、故・堀切利高)の膂力に感服するしかない。編集委員の一人、山泉進は、次のように述べている。
 「今回の新全集は、(略)初出をもとにした厳しいテキスト・クリティ―クのもとで客観性と完全性をめざし、次の五〇年の年月に耐えられる全集にしたつもりである。もちろん、新しい時代の思想状況と運動課題を意識して刊行するものである。折しも二〇一一年の『3・⒒』(略)を挟むことになった。大杉栄は『3・⒒』以後の時代状況のなかで、どのような未来の社会ヴィジョンと未来への運動スタイルを私たちに示してくれているのであろうか。そのことへのヒントが本全集に含まれ、そのための編集方針であることが十分に評価されることを願っている。」(「編集を終えて」)
 確かに、大杉の魅力のひとつをいえば、わたしたちがいる現在というものを、大杉ならどのように捉えるだろうかと思うことに尽きるような気がする。別に、大杉に同化(そんなことは不可能に決まっているが)して、考えるべきだというのではない。山泉がいうヒントを、少しだけ敷衍してみるならば、考えていく契機といっていいかもしれない。
 そこで、最終配本となった七九二頁という大部な一冊の『別巻』に関して、触れておくならば、全六章立てで、「補遺」「書簡」「雑簒」「著書目録」「著作年譜」「年譜」という内容となっている。なんといっても、注目は、「書簡」である。かつて、『大杉栄書簡集』(74年12月刊・海燕書房)を手にしたものにとっては、さらに三二通補完され、二一九通収められたことは、大杉の〈像〉へのあらたな通路となっていくはずだ。
 「いろんな奴に会つて見たが、理論家としては偉い奴は一人もゐないね。其の方が却つていいのかも知れないが。が、戦争中すつかり駄目になつた運動が、今漸く復活しかけてゐるところで、其の点は中々面白い。そして若いしつかりした闘士が労働者の中からどしどし出て来るやうだ。此の具合で進めば、共産党位は何んの事もあるまい。共産党は分裂又分裂だ。/イタリイはフアシスチの黒シヤツのために無政府党も共産党もすっかり姿をかくして了つた。/ドイツは余程、と云ふよりも寧ろ、今ヨオロツパで一番面白さうだ。そこでは、無政府党と一番勢力のある労働組合とが殆ど一体のやうになつてゐる。そしてロシアから追ひ出された無政府主義の連中が大ぶ大勢かたまつてゐる。」(近藤憲二宛、一九二三年・月日不明)
 親愛なる同志・近藤憲二に当てた書簡ということもあるかもしれないが、適確に、「ヨオロツパ」情勢を伝える大杉の視線に感嘆する。わたしが、いつも思うことなのだが、大杉は視線の軸をしっかりと据えながら、それを、まるで扇のかなめのようにして、拡張させていくことで、類まれな情況分析の深度を、有していることだ。
 さらにいえば、思考の幅を閉じることなく、いつも開いていることだといっていい。だからこそ、閉塞的な情況を開示させていく契機を、大杉の思考に見出すことは、極めて現在的だと、『全集』完結に際し、いっておきたいことである。
 「いずれ遠くない時期に、『大杉栄関係資料集』(仮題、全三巻)の企画、刊行を考えている」(山泉進「同前」)という、期待して待ちたいと思う。

◎第1巻~第7巻・定価:各巻・本体6800円+税、 第8巻~第⒓巻・別巻・定価:各巻・本体8000円+税

(『図書新聞』16.3.12号)

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