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2015年2月14日 (土)

『アナキズム叢書』発刊に寄せて                  ――多様なアプローチによって喚起されていくこと

 アナキズムという思考の有様、あるいは概念というものついて考えてみる時、おそらく、多様なアプローチがなされるはずだと、わたしは思っている。なぜなら、長い間、アナキズムという思考の有様について考えを巡らしてきたわたしですら、いまだに、明確なテーゼをつかみきれないでいるからだ。フーコーの権力は至るところに偏在するという見立てに倣うならば、反権力を中心的な思考の核とするアナキズムは、至るところへと視線を射し入れるべきであり、その限りでは、アナキズムという思考の有様は、絶えず、難所や障壁の前に佇まざるをえないことになる。
 マルクス主義が、マルクスやエンゲルス、レーニン、トロツキーといった先人の著作(テクスト)によって、共感していく人たちに、その思想的な端緒が開かれているように、アナキズムも、バークニンやクロポトキン、プルードン、幸徳秋水、大杉栄といった先人の足跡を辿ることは、可能だ。だが、これらの思考を継承していくだけでは、現在の閉塞的な情況を越え出るための契機に、なかなか、なりにくいことは断言できる。少なくとも、現在というものを絶えず、視線の中に組み入れることなしには、思考というものは、たんなる知的円環のなかの断片に過ぎないといっていい。
 いわば、現在を見通すべくテクストの創刊という企図のもと、わたし自身も関わって、『アナキズム叢書』という冊子を『アナキズム叢書』刊行会(発売元・『アナキズム』誌編集委員会)から発刊した。第一回配本は、『死の商人への挑戦―1966/ベトナム反戦直接行動委員会の闘い』、『アナキズムの展望―資本主義への抵抗のために』、『労働廃絶論』の三冊。予定では、半年後に、『アナキズム入門』、『六月行動委員会』などの刊行を予定していて、継続的な刊行を目指している。
 『労働廃絶論』(ボブ・ブラック著、高橋幸彦訳)は、苛烈な書名に一瞬驚くかもしれないが、極めてシンプルに、わたしたちの現在の立ち位置を問うている。つまり、「人は皆、労働をやめるべきである。/労働こそが、この世のほとんど全ての不幸の源泉なのである」、「私が本当に見たいと望むのは、『労働』を『遊び』に変えることである。/その最初のステップは『仕事』や『職業』という観念を捨てることだ」、「誰も働くべきではない。万国の労働者よ……リラックスせよ!」等々、と述べながら社会主義国家や資本主義国家が陥っている矛盾を鋭く切開しているのだ。他に「国家はウソだらけ……世の中ウソばかり」など三篇の小論も収録されている。
 『アナキズムの展望―資本主義への抵抗のために』(シンディ・ミルスタイン著、森川莫人訳)は、現在を視野に入れた鮮鋭なアナキズム論集である。解説の高祖岩三郎によれば、ミルスタインは、3.11に「衝撃を受け、かつてない終末的時代の到来を確認」し、以後、「各地を転戦し、ニューヨークに居を定め」、「アナキズムを主調とした民衆闘争にまつわる資料の展示/保存室の運営委員会で」の活動を通して、「福島以後の問題に積極的に介入している」という。本書は、ミルスタインが、2000年から12年までに発表した五篇の論稿を収めたアンソロジーとなっている。
 『死の商人への挑戦―1966/ベトナム反戦直接行動委員会の闘い』は、1966年の10月と11月の二度にわたって軍事兵器を生産し、ベトナム戦争へ加担していた軍需工場へ抗議行動をし、逮捕されるという事件の詳細とその反響を収めて、67年5月に発行された資料集(編集・べ反委公判パンフ編集委員会、発行・ベトナム反戦直接行動委員会)に、新たに、わたしの「序」と松本勲による「あとがき」を加えた新装版である。べ反委の行動は、67年10月8日の新左翼諸派による羽田闘争の一年前であり、日韓闘争以後、対抗的運動が低迷していくなかで、生起した衝撃な行動であったのだ。そしてなによりも、戦後、サロン化し思想的退行のなかに浸っていたアナキズム潮流に対して、楔を打った行動でもあった。さらにいえば、べ反委以後、七〇年前後にかけて、様々なアナキスト・グループの運動を派生させた契機でもあったと見做すことができる。当時、多くの人たちがベトナム戦争は対岸の火事としか認識できなかった時に、日本資本主義国家の暗部を燻り出したことは、戦後の反体制運動のなかで、象徴的な「事件」だったといっていいと思う。
 こうして、発刊された三冊の多様なアプローチによって、未知の読者が喚起されていくことを願っている。

(『図書新聞』15.2.21号)

※『死の商人への挑戦―1966/ベトナム反戦直接行動委員会の闘い』
[編集・べ反委公判パンフ編集委員会]
四六判変型・232頁・定価[本体一三八九円+税]

※『アナキズムの展望―資本主義への抵抗のために』
[シンディ・ミルスタイン著、森川莫人訳]
四六判変型 ・100頁・定価[本体八三三円+税]

※『労働廃絶論』
[ボブ・ブラック著、高橋幸彦訳]
四六判変型92頁・定価[本体八三三円+税]

※発行・『アナキズム叢書』刊行会
※発売元・『アナキズム』誌編集委員会[Tel03-3352-6519]

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