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2015年3月14日 (土)

五十嵐進 著『雪を耕す――フクシマを生きる』        (影書房刊・14.12.25)

 わたしは、著者から発せられる痛切な言葉のなかに深い憤怒を感じ、3.11以後、あるいは、フクシマ以後に対する自分自身の言説が空疎なものへと露呈していくのが、いやがおうでも突き付けられてしまい、ただ悄然とするしかなかった。それは、原発に対峙する理念をめぐって、当たり前に「生きる(生活する)」ことへの普遍視線を、理念以前のリアルな言葉として表出することを無意識のうちに、置き去りにしてきたのではないかと、気づかされたからだ。四年前のあの時、想像を絶する大地震と津波、そして原発の崩壊によって、わたし(たち)を襲った、放射性物質の広範囲にわたる飛散に対する恐怖心を、日々感じていたはずなのに、いまは何ごともなく過ごしている日常がある。そこで叫ぶ、反原発がなんとも空々しく思えてならない。福島原発の周辺どころか、福島県全域で「生活する」ひとたちは、四年経ったいまでも、日々の放射線量を意識しながら生きていかなければならないのだ。自分自身も含めて、わたしたちは、自分たちの場所で、そのことをどれだけ意識しながら、現在という時間を過ごしているのだろうかと思わざるをえない。
 原発の廃炉作業は、トラブル続きで、汚染水の流出は頻繁に起きている。除染問題も含めて、一体どこまで廃炉作業が進んでいるのか、さらには、被曝によって人体に与える影響(政府や行政は、福島の子どもたちの甲状腺がんの発症率が上がっても、依然、過小評価をし続けている)も含めて、ほんとうのところは、何も知らされていないのが、フクシマの現在なのだ。
 「会津・喜多方に住み、(略)社会的な職も人並みに勤め上げて、今は土を耕している。父祖伝来の土である。この土が3月12日の福島第一原子力発電所の水素爆発により吐き出された放射性物質によって汚染の土と化してしまった。」「低線量、高線量に関わらず平常とは違う放射線量があることは確かなのだ。それを『風評』として一蹴すべきではない。感情的に流すべきではない。もっと慎重に対応すべきである。」「除染も大量の労働力と何千億円もの予算がつぎこまれているが進捗状況は必要戸数の26%程度である(14・2月現在)。その効果も一時的で、再除染要求の声も聞かれ、きりがない状態だ。また除染による放射性ゴミも正式な集積場もなく、民家の敷地内や公園の一角などに野晒しの状態である。」「日本でも識者から放射能の人体被害として癌が大きく取り上げられ、懸念されているが、タチアナさん(引用者註・ウクライナの看護師)はその他に鼻血、低血圧、無気力症、皮膚障害、頭痛、足痛、胸痛、背中痛、胃痛等々、痛みとして現われる現実を(略)話してくれた。(略)放射能による痛みは1・1ベクレル/kgの食事で発症し、健康影響が出るとされていた最低線量の1300分の1で痛みが出た、ということが明らかになった。これから日本でも現れるだろう症状である。われわれは原発爆発がどういう災厄をもたらすかを知らない、といっていい。蛮勇は退けなければならない。」
 著者は、『指』『引首』『いいげるせいた』といった句集をもつ俳句表現者である。本書の大部は、福島の同人誌「駱駝の瘤」、独立労組・横浜学校労働者組合機関紙「横校労」、俳句同人誌「らん」に、11年7月から14年8月まで執筆され、それぞれに掲載された先鋭なる「フクシマレポート」とでもいうべき文章群である(他に俳句作品75句、震災後俳句への批評を収載)。そして、「書くことによって見えてきたものがある。意図的なごまかしと誘導の動きである。当局は人々のことなど本当には心配していないのだ」と述べながら、「国とは、政府とは、行政とはなにか」(「うしろ書き」)と鋭く問う。ほんらいは、「国」や「政府」、「行政」なるものは、「人々」のために存在するものであるはずだ。しかし、ほんらいということ自体が、人間社会の剥き出しの欲望のなかで、風化してきたといえる。その果てに、そこの構成員たちは、public servantであることを忘れ、幻想の共同性へと掬い取られていき、「人々」より大事なものは、「国家」ということになっていったと、わたしなら断じておきたい。
 「あゝ以後は放射能と生きてゆくのかあやめ」「汚染藁焼く日本の夜と霧」「真剣を雪で研ぐ心のテロリスト」「種蒔くよ国家より古き土くれ」「雪解けの見えざる敵や光る鴨」「汚染とよ人を侮る心生(あ)れんか」
 著者・五十嵐進の俳句表現は、さらに先鋭に、「国家」と、「政府」と、「行政」を撃っていく。

(『図書新聞』15.3.21号)

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