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2014年10月15日 (水)

伊藤彰彦 著『映画の奈落――北陸代理戦争事件』          (国書刊行会刊・14.5.25)

 1970年代の日本映画で、実録やくざ抗争劇を主題とした作品が数多く製作されていた。わたしもそうだが、当時、多くの観客を魅了したものである。その先鞭となったのが、『仁義なき戦い』(73年・東映、監督・深作欣二、脚本・笠原和夫)だ。この作品は、『映画芸術』の日本映画ベストテンの第一位になるという高評価を受けている。東映は以降、『仁義なき戦い』シリーズを初め、数多くの実録やくざ路線の作品を製作、配給していくことになる。本書で取り上げている『北陸代理戦争』(77年公開。監督・深作欣二、脚本・高田宏冶)を、わたしは、もちろん封切館で観ている。後々まで印象深い作品として残ったのだが、当時のわたし自身の感慨をふり返ってみれば、なにか、未消化な感覚を抱いたものだ。77年は、待望久しい加藤泰と鈴木清順の新作が同時に封切られるという画期的な年でもあったが、本書の著者が指摘するように、「『北陸代理戦争』に漂う、実録やくざ路線末期の暗鬱さ」のためだったように思う。だが、この映画は、いろいろな意味で、まぎれもなくその時代を象徴する作品であったのは、間違いない。この後、深作は実録路線から離れていったし、主人公のモデルとなった川内組組長・川内弘が、公開されて一ヵ月半後、実際の抗争で殺される「三国事件」が起きたからだ。
 かつて、高田宏冶は、『高田宏冶 東映のアルチザン』(96年・カタログハウス刊)で、「実録やくざ映画の脚本がエンターテインメントとして生彩を放つ場合には、こちらが手応えを感ずるモデルがいな」ければならないと述べていた。しかし、それはまた、著者がいうように「実録やくざ映画にはさまざまなやくざ絡みのトラブルがともな」うため、「矛盾とジレンマがある」ということになるのだ。
 本書は、企画段階から脚本完成・撮影開始、公開までを関係者への徹底した取材や多様な資料の精緻な解析によって、一つの映画作品が完成していくプロセスをスリリングに描出しながら、やがて、それぞれの関係者が奈落へと向かっていく様を見事に浮き上がらせていく。特に高田が川内に共感しながら書き上げいく脚本という世界の奥深さを、著者の鮮鋭な視線によって明らかにしていくところは、本書の核心部分だといっていい。「三国事件」がなぜ起きたのかといったことは、様々な因縁があるとしても、映画のラストで川内が対立する山口組若頭補佐(菅谷)に向かって宣戦布告するシーンを描いたことで「川内弘の菅谷政雄に対する立場を危うく、そして旗幟鮮明にさせ、『三国事件』にいたる〈奈落〉に向かって背中を押した」のは、確かである。映画というものの凄さがそこにはある。

(『通販生活 2014年秋冬号』14.11.15)

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