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2011年12月20日 (火)

全写真につけられたキズは荒木自身の3・11以後の心象そのもの。――荒木経惟 著『写狂老人日記』(ワイズ出版刊・11.10.11)

 荒木経惟は、『センチメンタルな旅』や『愛しのチロ』などの写真集を通じて「私写真」という世界を展開してきた。しかし、2011年3月11日から6月11日までに撮られた283点の作品を収めた本書では、これまでとは違う、驚くような新しい試みをしている。
 掲載された写真はすべてネガの段階で、ハサミの刃によってキズをつけてから紙焼きされたものなのだ。書名を日記としているから、「私」的なことから離れているわけではない。だが、「3.11」に拘る以上、荒木は写真に「私」的なこと以上の断面を反映させなければならなかったのだと思える。本書の3月11日は幾つもの怪獣のミニチュアが道路いっぱいに置かれた写真から始まる。空、ビル、人、顔、テレビ画面、新聞記事、墓地、自分自身、自転車、雑踏、最後の6月11日の写真は空で終る。キズは、様々につけられていく。細く鋭利な線、太く電線に雪が覆っているかのように見える線、荒々しく重ねた線、それは、撮影者、荒木経惟自身の3.11以後の心象を写し出しているといっていいはずだ。

(『通販生活』2012年 春号)

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