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2006年6月14日 (水)

山口健二遺稿集『アナルコ・コミュニズムの歴史的検証』(北冬書房刊・03.9.13)

 山口健二の名は、ある種、伝説化した物語を付随して響かせていた。物語は、当然のごとく〈反権力〉、〈反体制〉運動といった磁場のなかからものだ。山口は、戦後すぐに、第一次アナキスト連盟へ参加、アナ連を離れた後、社会党と共産党に二重加盟そして除名。六〇年は谷川雁らの「大正行動隊」に参加して三池闘争を支援。六二年、吉本隆明、埴谷雄高、谷川雁らを講師とした「自立学校」に関わる。六五年、松田政男らと「東京行動戦線」を結成。六六年、「ベトナム反戦直接行動委員会」に関わる。その後、レボルト社を設立して『世界革命運動情報』を刊行、ML派に加盟、東大安田講堂攻防戦に関わる。そして、中国へ渡り、文革左派に参加し、林彪事件に連坐、投獄される。こうして、時間性にそって素描したところで、山口の像はつかみきれるわけではない。
 七〇年以後十数年ほど、山口の消息を聞かなくなった。そのことも伝説化した一因である。八〇年代後半から亡くなるまでは、一貫して、〈アナキズム〉に関わっていくことになる。本書は、遺稿集にして、山口の初めての著作でもある。五〇年に発表した文章から、九八年に発表した文章までと、ほぼ山口の活動の幅を包括させるかたちで編まれている。
 Ⅰ、Ⅱ章に配置された文章群は、やや啓蒙的なものを、Ⅲ章は情勢論や追悼文といったものが収められている。
 書名にとられている「アナルコ・コミュニズムの歴史的検証」と「アナキズムからみたスペイン革命小史」は、刺激に満ちた論稿だ。既知の事柄にもかかわらず、山口の〈歴史的検証〉の手さばきはあざやかだ。
 一九〇五年前後のロシア・アナキズム運動から一七年十月革命以降までを射程に入れた「アナルコ・コミュニズムの歴史的検証」は、レーニンの革命論(それは当然、国家、党、権力の問題にかかわることだ)とバクーニンの苛烈な革命主義の徹底した分析が主題になっているといってもいい(残念ながら、この論稿は未完だ)。例えば、このように。
 「レーニンにしつこくこだわる。アナキストにとって不倶戴天の敵であったレーニンの思想と人間を究明することが、アナキズム―とくにアナルコ・コミュニズムとその主柱となったバクーニン主義の究明に不可欠だと思われるからだ。」(39P)
 山口の考えは、〈党〉の問題を除外すれば、その著『国家と革命』がテーゼとしているものは、コミューン主義でアナキズム的だというものだ。アナルコ・コミュニズムは「過度期論として『パリ・コミューン主義』を継承し」ているとして、レーニンの過度期国家論(半国家論)は、パリ・コミューンに通底していくと捉える(31P)。わたしは、このような見解にそれほど異和は感じない。だが、最も大きな問題は、権力(前衛党の問題も当然含まれる)をどう無化していくかということだと思う。その問題こそ、アナキズムが最もアクチュアリに表出する場所なのだ。過度期論の定立は政治的権力の有効性の是認であり、その限りでは、権力の無化へと向かうプロセスは眺望できないとわたしなら考える。山口は、アナキズムもマルクス主義もその教条性や原理主義にからめとれて、退行化していく様を体験的に知っていた。だからこそ両方のプラス面を補完し、止揚していくかたちの思考を模索していた。アナキズムではなく、アナルコ・コミュニズムと規定したのもそのためだ。山口の鋭利な分析は、どうしても情勢論的なものを払拭できないでいると、わたしは思う。つまり、もっと〈情勢〉や〈情況〉にからめとられることなく自由に振る舞える場所から思考は、表出されべきなのだ。山口は、「全共闘、新左翼党派、武闘中心主義が行きつくところ、日本などすぐはみ出して、ゲバラ主義から中国文革運動参加へのめりこみ、惨憺たる敗北に行き着」(203P)いたと自戒を込めて述べている。そうだろうか。どうして、なにをもって「惨憺たる敗北」といいきってしまうのだろうか。これも、情勢論的ものいいだと思ってしまう。
 「アナルコ・コミュニズムの歴史的検証」や「アナキズムからみたスペイン革命小史」といった刺激的な論稿を展開できる人が「惨憺たる敗北」といってはならない。
 「ぼくの孤独はほとんど極限に耐えられる/ぼくの肉体はほとんど苛酷に耐えられる/ぼくがたふれたらひとつの直接性がたふれる」(吉本隆明「ちいさな群れへの挨拶」)
 この詩を、「いつも心奪われる表現のひとつだ」(199P)と山口健二はいう。 
 一九九九年六月十二日逝去。享年、七三歳だった。

(『図書新聞』03.11.15号)

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